9:40-10:20 | 伊藤 創祐(東京大学) | 最適輸送に基づいた熱力学 |
最適輸送理論におけるWasserstein距離を用いて、状態間の遷移に必要な散逸である最小エントロピー生成を議論することができる。また微小な時間間隔を考えることで、散逸率であるエントロピー生成率を、ポテンシャルによる寄与とそれ以外に分解することができる。さらに最適輸送理論の幾何学的な構造から、熱力学的な散逸と物理量の空間的な揺らぎとのトレードオフ関係である熱力学的不確定性関係などを導出することができる。 この最適輸送に基づいた熱力学の理論的な進展について紹介したい。 | ||
10:30-11:10 | 高津 飛鳥(東京都立大学) | 最適輸送問題の私的部分的紹介 |
本講演では最適輸送問題を幾何解析の視点から概説します。(講演内容の多くは講演者の結果ではありません。) まずは最適輸送問題を最小化問題として定式化して、それから適切な設定下では最適に物質を輸送する方法はエネルギー最小の方法であることに言及します。 その際に、空間にどのような仮定が課されるのかを説明します。 さらに最適輸送理論の応用として、空間の曲がり具合を熱流を用いて定式化できることを説明します。 そして説明の際に、平らな空間と曲がった空間、あるいは有限次元空間と無限次元空間ではどのような違いがあるのかについても触れたいと思います。 | ||
11:10-11:50 | 竹内 尚輝(産業技術総合研究所) | 断熱超伝導回路 ―情報熱力学への応用― |
断熱超伝導デバイスAQFPは、断熱スイッチ(エネルギー効率の良い論理状態のスイッチ方法)により極めて小さな消費エネルギーで論理演算を実行できる。このため、低電力マイクロプロセッサの開発から情報熱力学の研究まで、様々な分野の研究開発に応用可能である。本講演では、AQFP回路の基礎と最近の発展、及びこれまでの情報熱力学に関連する研究成果について紹介する。特に、AQFPを基本素子として用いることで、熱エネルギーレベルの微小散逸で動作可能なデジタル集積回路を実現できること、ならびに可逆計算やLandauer原理等の情報熱力学に関する理論を回路レベルで議論できることを示す。 | ||
12:50-13:30 | 鈴木 義茂(大阪大学) | 磁気スキルミオン系における拡散と情報の流れ |
強磁性薄膜に発生する磁気スキルミオンは固体中で物質の流れなしに粒子のようにブラウン運動をする。そのため固体ブラウニアン計算機の情報担体として興味が持たれている。本研究ではまず拡散係数の高いスキルミオンを作製しその拡散運動を解析した。さらに複数のスキルミオン間に現れる情報の伝達について解析した。 | ||
13:30-14:10 | 相川 清隆(東京工業大学) | 超低温ナノ粒子の飛行時間法による運動量測定 |
真空中の浮揚ナノ粒子は、巨視的物体の運動を制御するオプトメカニクスにおける新たな量子系として注目を集めている。我々は、中性ナノ粒子の重心運動を全光学的に量子基底状態へと冷却する新たな手法を開発すると共に、球に近いナノ粒子の3方向の回転振動を観測・冷却する手法を確立した。ナノ粒子に対しては、従来、捕捉ポテンシャル中での位置観測のみが行われてきたが、我々は捕捉ポテンシャルを切って飛行させ、飛行距離から運動量を測定する飛行時間法を実現した。その結果、基底状態より充分高い温度では、重心運動の温度に対応した熱的分布による運動量幅が見られること、また基底状態付近では回転振動の影響により運動量幅が大きく広がることを見出した。さらに、観測結果は、球に近いナノ粒子のわずかな非対称性によって説明できることを理論的に見出した。 | ||
14:10-14:50 | 野口 篤史(東京大学) | 超伝導量子回路と熱機関 |
超伝導量子回路は数百マイクロ秒の長いコヒーレンス時間を持ち、さらに回路の設計により様々な量子実験が可能なプラットフォームである。特に量子ビットに熱浴となる共振器を集積し、それらを制御された形で相互作用させることで、量子情報熱力学や量子熱機関の実験研究が可能になる。本発表では、我々のチームによる超伝導量子ビットの性能向上と、熱機関を構成する超伝導量子回路の設計、その拡張性について議論する。 | ||
15:00-15:40 | 菅野 恵太(QunaSys) | 量子コンピュータの産業応用の現状と展望 |
量子コンピュータはこの数年で著しい進歩を遂げており、1000量子ビット級のデバイスの登場や、エラー訂正の実機での実証など、その技術的発展には目を見張るものがある。一方で、量子コンピュータの産業応用はまだ達成されているとは言えず、実現のためには多くのハードルが存在する。本講演では、量子コンピュータの産業応用を目指すスタートアップ企業の視点から、量子計算の現状や今後の展望について自社の研究も交えながら紹介する。 | ||
15:40-16:20 | 濱村 一航(日本アイ・ビー・エム) | Quantum Utility時代の幕開け |
2023年、量子誤り緩和技術の進展により、100量子ビット以上の量子回路の期待値を精度良く求めることが出来るようになってきた。本講演では、IBMの最近の量子コンピュータ技術、特に誤り緩和手法についてレビューをおこない、沙川研究室とIBMの共同研究を紹介する。共同研究では、量子Krylov部分空間法を用いた基底状態のエネルギーの計算を研究しており、量子コンピュータを用いてUtility規模に向けた実験を実施している。本講演を通して、今後数年の量子コンピュータで出来そうなことを感じ取っていただき、皆様の各専門領域での活用を考えていただければ幸いである。 | ||
16:30-17:10 | 佐々 真一(京都大学) | 力学・ゆらぎ・情報の絡みあい |
力学による記述と確率による記述をめぐる論争は19世紀から少しずつ形を変えながらずっと続いてきた。その中からいくつかのトピックスをとりあげて紹介しながら、現在および未来の問題についても考えたい。具体的には、統計力学の基礎をめぐるカオスと確率の関係、および、確率過程におけるエネルギー、情報、応答の関係について、論点整理を行い、今なお何が知りたいのかを提示する。前者では、力学的記述においてどのように確率や情報がでてくるのか、後者では、確率的記述においてどのように力学が関わるのか、という意味で相補的になっている。 | ||
17:10-17:50 | 上田 正仁(東京大学) | Beyond Hermitian Quantum Physics |
量子力学は通常はオブザーバブルがエルミート、時間発展がユニタリーという制約が課される。しかし、開放系や観測と制御がなされる量子系においてはこれらの制約から解放された新しい可能性が開ける。講演ではトポロジカル量子現象や物性物理学においてエルミート量子物理学の制約を取り除くことによって拓かれる新しい可能性について議論する。 |